2009-06-20

少女の最期の願いと『カールじいさんの空飛ぶ家』

『カールじいさんの空飛ぶ家』といえば、ピクサーの通算10本目のCGアニメだ。
5月末に全米公開されたばかりだが、なんと劇場公開中の同作を自宅で鑑賞することを許された、幸運な女の子がいた。
その女の子は、『カールじいさんの空飛ぶ家』のDVDを自宅で鑑賞した7時間後に他界している。

これは、OC Register紙が報じた感動の実話である。


この記事の主役は、十歳の少女コルビーちゃんだ。三年前に癌と診断されて以来、闘病生活を強いられてきた。
今年春、映画館でドリームワークスのCGアニメ「モンスターVSエイリアン」を観たとき、コルビーちゃんは予告編で紹介された『カールじいさんの空飛ぶ家』に興味を抱く。しかし、5月29日に『カールじいさんの空飛ぶ家』が劇場公開されたときには、すでに容体が悪化していた。6月4日、お母さんはコルビーちゃんを映画館に連れていくために車椅子のレンタルを注文する。しかし、配送が遅れたため、車椅子が到着したときには映画館に搬送できないほどに体調が悪化していた。

コルビーちゃんの最期の願いをなんとしても叶えてあげたい。そう誓った家族の友人は、6月9日にピクサーとディズニーに電話攻勢をかける。ピクサーの電話番号は自動応答メッセージで、担当者の名前を知らないと、直接話せない仕組みになっている。そこで、この友人は適当な名前を挙げて、なんとか生身の人間に取り次いでもらうと、窮状を訴えた。
すると、翌日、ピクサーの社員が『カールじいさんの空飛ぶ家』のDVDを持って、コルビーちゃんの自宅に急行したのだ。
ピクサーの社員は、コルビーちゃんの家族と一緒に映画を鑑賞。上映が終わると、そのままDVDを持って、ピクサーに戻っていったという。
そして、その日の夜、9時20分にコルビーちゃんは他界した。

悲しいけれど、感動的な話だ。

まず、最期の作品が『カールじいさんの空飛ぶ家』だったのが幸運だった。笑いとアクションがたっぷり詰まった娯楽映画だけど、同時に、生と死に関する美しいメッセージがある。78才のおじいさんを巡る冒険物語は、娘に先立たれたご家族にきっと勇気を与えるに違いない(ご家族には、映画にちなんで「 アドベンチャー・ブック」が贈られたという。映画を観ていない人にはなんのことか分からないだろうが、その意味合いを考えると、素晴らしい贈り物だと思う)。

そして、臨機応変な対応をしたピクサーもすごい。なにしろ、連絡をもらったその翌日に、社員を飛行機で飛ばしたのだから。普通の会社なら、こんなに早くは動けないし、なんらかの外圧がなければ、そもそも対応すらしないだろう(じっさい、ディズニーは断ったそうだ)。ピクサーは連絡をもらったその日のうちに、コルビーちゃん宅への訪問を約束している。友人からそのニュースを聞いたお母さんは、果たして明日まで持ちこたえられるかどうか娘に尋ねた。すると、コルビーちゃんはこう答えたそうだ。“I’m ready (to die), but I’m going to wait for the movie” 「(死の)準備はできているけど、映画を待つわ)」

ピクサーはこの件に関する取材を断っており、また、駆けつけた社員の名前も明らかにしていない。ここらへんもさすがだと思う。